不妊症
不妊症とは
不妊症は、全夫婦の10%以上と言われています。健康な男女の場合1年で80%の方が、2年で90%の方が妊娠されます。
結婚後1年(女性が35才以上の場合は半年)経過しても妊娠しない場合は不妊症と診断します。治療開始が早いほど妊娠の成功率も高くなりますので、まずご相談ください。
- 不妊の原因はほぼ男女半々です。カップルで協力して検査・治療に取り組みましょう。
- 不妊の検査・治療は近年格段に進歩しています。積極的に検査・治療を受けることで、妊娠の可能性は高くなります。
- 不妊治療の期間は数ヶ月から数年に及ぶ場合もあります。医師と相談しながら根気よく取り組みましょう。
+当院は、日本産科婦人科学会体外受精登録施設、青森県特定不妊治療費助成事業指定医療機関です。
+また日本産科婦人科学会専門医、日本臨床エンブリオロジスト学会認定臨床エンブリオロジストが在籍しています。
妊娠の成立
排卵
ホルモンの働きにより卵胞が発育し、各月経周期に一度、卵子を排出します。
受精
卵子は卵管釆に取り込まれた後、卵管に送られ、腟から子宮を通って進入してきた精子と出会い受精します。
着床
受精した卵子は子宮へと移動し、子宮内膜にくっつき妊娠が成立します
不妊の原因
- 排卵障害
- 卵管の閉塞・癒着
- 子宮の形が異常(受精卵が着床しにくい)
- 子宮や卵巣の病気(子宮内膜症、子宮筋腫など)
- 子宮の入り口を精子が通過できない(頚管粘液が少ない)
- 精子の数が少ない、動きが悪い
- その他(原因不明)
検査について
不妊症の原因は、女性が1/3、男性が1/3、残りは両方が原因または原因不明です。したがってカップルで検査を受ける必要があります。
まず子宮がん検診・性感染症の検査を行った上で、基本検査にすすみます。
6大基本検査
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1.基礎体温
排卵の有無や排卵日予測に有効な検査です。正常月経周期の場合は、低温相と高温相の2相性を示します。そして低温相最終日と尿検査、超音波検査などを組み合わせて排卵日が推定できます。
基礎体温測定のポイント
就寝時に婦人体温計を枕元に置いておき、朝、目を覚ましたらすぐに横になったままの状態で測りましょう。
●できるだけ起床時間(測定時間)を一定にしましょう。
●低温相から高温相に上がり始める頃に排卵があります。
●1~2日測り忘れても、あきらめないで続けましょう。 -
2.頚管粘液検査
子宮頚管腺から分泌される粘液を頚管粘液と呼び、月経周期に従って性状や量が変化します。排卵日が近づくにつれ粘液量が増え、糸を引くような状態になります。
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3.フーナーテスト
子宮頚管粘液中に、精子の運動を妨げるものがないかどうかを調べる検査です。頚管粘液中の精子の運動性を調べます。
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4.子宮卵管造影
子宮の形や卵管の通過性を調べるレントゲン検査です。月経終了後の低温相に行います。
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5.超音波検査
超音波プローブを腟から挿入して子宮筋腫・卵巣のう腫・子宮内膜症などの異常がないかを確認します。また卵胞の数や大きさ、子宮内膜の厚さを知ることができるため、排卵時期の予測が可能になります。
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6.精液検査
精子濃度、運動率、奇形率、 細菌感染の有無などを調べます。精子の状態は体調などにより変化するので、数回検査を行う場合があります。持参する時は冷やさないように注意し、受付に提出してください。
精液検査を行なう際には、男性のカルテが必要です。男性も受診手続きをしてください。
精密検査
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1.LH-RHテスト・TRHテスト
排卵障害がある場合、原因診断のために行います。
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2.腹腔鏡検査
お腹の中に内視鏡を挿入し、子宮内膜症や卵管病変の有無を調べます。入院が必要です。
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3.MRI検査
磁場を用いて体の断面像を撮ることのできる検査で、子宮や卵巣形態の詳細な情報が得られます。子宮筋腫や子宮内膜症病変の診断に有用です。
腹腔鏡検査、MRI検査は当院には設備がありませんので、可能な施設にご紹介します。
治療内容
- 人工授精
- 体外受精
- 顕微授精
- 精子凍結
- 胚・卵子凍結
- 凍結胚移植
- アシステッドハッチング
- 胚盤胞培養
- タイムラプス培養
- Split培養
- SEET法
- 卵子活性化
STEP 1 タイミング療法
超音波検査による卵胞や子宮内膜の計測・尿中LH・子宮頚管粘液量の確認により、排卵日を予測して性生活のタイミングを指導する方法です。
タイミング法を行うことで、20~30%のカップルが妊娠に至ります。
STEP 2 排卵誘発
排卵障害がある場合やSTEP1で妊娠できない場合に行います。経口の排卵誘発剤から使用し、無効の場合は注射の排卵誘発剤を使用します。
排卵誘発剤の種類
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クロミフェン(商品名:クロミッド)
月経周期の5日目から5日間内服します。通常は15~18日目に排卵が起こります。 女性ホルモンの働きが抑えられるため、子宮内膜が薄くなったり、頚管粘液が減少したりすることがあります。そのような副作用がみられた場合は他の薬剤に変更します。
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シクロフェニル(商品名:セキソビッド)
月経周期の3日目から7日間内服します。排卵日はあまり一定しませんが、クロミッドのような副作用はありません。
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レトロゾール(商品名:フェマーラ)
月経周期の3日目から5日間内服します。排卵日がやや不安定ですが、クロミッドのような副作用がなく、排卵率・妊娠率ともクロミッドと同等以上と報告されています。
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ゴナドトロピン製剤(商品名:HMG、ゴナールエフ等)
内服剤が無効な重症の排卵障害がある場合に使用します。月経周期の3~5日目から連日または隔日で注射します。最近では自宅でも注射可能なペン型製剤の使用が可能になっています。
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カベルゴリン
産後に母乳を分泌させるホルモンをプロラクチンといいますが、このホルモンが産後以外の時期に高くなると、排卵障害の原因となります。これを高プロラクチン血症といいます。治療のため週1回服用します。
STEP 3 人工授精
排卵のタイミングに合わせて、精子を子宮内に注入する方法です。運動精子数が少ない場合、精子と頚管粘液との適合性が悪い場合、原因不明不妊で妊娠しにくい場合などが適応となります。
- 精液中の不要な物質を取り除き、運動良好精子を濃縮します(処理に1時間かかります)。
- 子宮内に人工授精チューブを用いて処理した精子を注入します。
- 注入後すぐに帰宅していただけます。
- 人工授精は女性の年齢に関わらず保険適用となります。
STEP 4 生殖補助医療(ART)
タイミング法、排卵誘発、人工授精までを一般不妊治療と呼ぶのに対し、体外で卵子や胚を操作する方法を総称しARTと呼びます。卵管性不妊、子宮内膜症、男性不妊などに対し、通常の治療を行っても妊娠が成立しない場合や、一般不妊治療が無効な場合に実施されます。
- 受精卵を子宮腔内に移植する方法を、IVF-ET(体外受精-胚移植)と呼びます。
- その他のARTとして、顕微授精(ICSI)や凍結融解胚移植などがあります。
体外受精の流れ
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1.卵巣刺激
排卵誘発剤で多くの卵胞を育てます。卵子をとる前に排卵しないようにコントロールする薬も使用します。
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2.採卵・採精
腟から卵巣に針を刺して卵子を採取します。痛みや出血の少ない細い採卵針を使用しています。また原則的に麻酔下に行います。当日ご主人の精液を採取します。
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3.受精
体外で卵子を含む培養液に精子を加え受精を促します。この操作を媒精と呼びます。
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4.培養
培養液の中で受精卵を育てます。
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5.胚移植
採卵後2~5日目の胚を、カテーテルを使用し子宮内に戻します。最近ではすべての胚を一旦凍結することも多くなっています(全胚凍結)。
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6.妊娠判定
採卵後約2週間で、尿検査や血液検査により判定します。